ヒマヒマなんとなく感想文|

「ゆっくり歩け、空を見ろ」


(森川 晃 2007.5)

「ゆっくり歩け、空を見ろ」そのまんま東 新潮文庫

 話題沸騰の宮崎県知事の少年時代を記した本。この本はタレント時代に出版された本の文庫版で、知事にならなければおそらく文庫化されることはなかっただ ろう。本が出版されたころのクレジットのまま「そのまんま東」になっている。本当は東国原英夫の方が売りやすかったと思うが。彼はタレントとして表舞台で 活躍するだけでなく、企画など裏方としても活躍していて、本も何冊か出版していた。テレビドラマのシナリオも書いていた。前妻(かとうかずこ)とは、自作 シナリオの番組の出演がきっかけになっている。活字媒体には慣れているので、ほかのタレント本に比べて質は良い。

 複雑な生い立ちはいかにも芸人のエリートコースという感じだ。師匠のビートたけしがまともなエリートコースの跳ね返りであるのに対して、彼は芸人エリートコースの跳ね返りで知事になったように思える。

 彼に関してはテレビでの活躍よりも、師匠といっしょにやっていたラジオの深夜放送が印象に残っている。当時はまだ弟子入りしたばかりで、ほかにはまだ誰 も弟子がいなかったはずである。ラジオはたっぷり時間があって、深夜なので規制も少ない。何でも言いたいことが言える。話すネタの尽きない者には天国であ る。師匠も彼もネタに尽きることはなかった。ほかのDJはスタッフの用意したコーナーに頼ることで番組を成立させていたが、この二人はきっかけさえあれば いくらでも話せたのだ。深夜放送なので、中学以降のやんちゃな頃の武勇伝がベースになっていた。師匠は高校までは優等生で十代の頃には「過ち」がないの で、そのころのネタは東氏の方がひっぱっていた。ただ、内容が過激で、洒落にならないものばかりなので、このラジオ以外ではほとんど話していないと思う。 もちろん、テレビよりも自由度の高い自身の本でも触れていない。

 この本は、やんちゃになる前の神童時代の家庭環境をまとめたもので、やんちゃになりかけたところで終わっている。最近出版された東国原英夫クレジットの 本でも14歳から18歳までの詳細は記されていない。「昔は悪かったけど、知事になれるんだ」という安易で間違った自慢をしたくないのだろうか。まあ、こ れは正しい判断だと思うけど。