ヒマヒマバブル絶好調道の川柳・森川晃なんとなく感想文

「日本の空港なるほど事情」


(森川 晃 2007.3)

「日本の空港なるほど事情」谷川一巳 山海堂

 航空関連の単なる情報本だが、1点気になっていたことが記されていたので手に取った。成田空港の第二滑走路の供用によりユニークな運用が行われている。 暫定の短い滑走路で、燃料満載の長距離便は使用できない。当方は特に航空事情に詳しくないので、アジア便などの短距離便が増発されるようになったと思いこ んでいたが、そうでもないようだ。長距離のヨーロッパ便が増発されたようだ。

先述のようにこれまでの運用では、暫定滑走路は使えない。そこで、燃料を数百 キロ分の少なめにして飛び立つのである。もちろん、このままではヨーロッパには到達しない。とりあえず、関西や中部まで飛び、ここで燃料を満載にしてヨー ロッパに向かうのである。関西や中部では搭乗のみ可能の経由扱いである。成田からの直行便よりは若干時間がかかるが、需要がこれを許している。関西や中部 にとっても便利である。

いずれも国際空港だが、いわゆるビジネス路線のほとんどは成田発着なので、いまだに関西や中部と成田を結ぶ国際線扱いの国内線の利 用率は高い。成田からの国際線のチケットを確保するよりも、この国内線のチケットを先に確保しておかないとスケ ジュールが決まらない。新幹線とNEXを乗り継ぐタイムロスは日程を1日増やすことになりかねないのだ。このように成田にはわずかな改善でもフルに利用し なければならない需要がある。幸せな空港である。


 ところで、当方は航空機をあまり利用していないが、ふと思い出してみると空港にはけっこう出かけている。空港ターミナルの周回道路に進入した空港は、女 満別、中標津、旭川、帯広、千歳、丘珠、函館、秋田、三沢、花巻、仙台、山形、庄内、福島、新潟、成田、羽田、小牧、中部、伊丹、関西、神戸、南紀白浜、 但馬、能登、小松、富山、徳島、松山、高知、高松、岡山、広島、米子、出雲、福岡、大分、長崎、宮崎、熊本、鹿児島、那覇、特に地図を見ながら思い出して いないので、いくつか忘れているところもありそうだ。これらの中には、就航便数が極端に少ない空港も含まれている。

航空機利用で立ち寄った空港は、その便 の発着時間に合わせてやってくるので、ターミナル内の施設は機能している。しかし、発着時間の隙間に立ち寄るとその様相は異なる。売店やレストランが CLOSEDになっていて、チケットカウンターには人がいない。どことは敢えて記さないが、ターミナルの正面玄関のドアが開かなかったところがある。自動 ドアがオフになっていて、用があれば横の手動ドアを利用するのだ。全面ガラスのすばらしいデザインのターミナルがもの悲しく 感じてしまう。駐車場は無料だが、数えるほどしか駐車していない。正面玄関の前に横付けしていてもしばらくならば大丈夫ではないだろうか。


 バブル期に全盛だった箱モノ行政が、自治体を圧迫している。ここでの箱モノは、何とか会館という地元密着のホールや、何とか記念館という集客見込みのな い観光施設が多い。さらに道路公団の民営化のころから無駄な道路にも着目されている。ただ、道路のような公共施設は一概に批判することはできないことがあ る。

財政破綻で話題になった北海道の夕張市だが、案外最近(1999年)高速道路が開通している。この開通により札幌までの所要時間が飛躍的に短縮され た。制限速度をややオーバーすれば夕張市街から札幌時計台までは札幌市内の一般道区間を含めても1時間で到達する。マスコミは夕張を批判しているが、この 高速道路にはあまり触れていない。夕張市が費用を負担したわけではないのだが、破綻した土地に高速道路を建設する方が、夕張の破綻よりもきついのではない だろうか。これは、道央と道東を結ぶ道東自動車道の部分開通で、夕張が終点ではない。経過地点が破綻していても道東(帯広、釧路)に到達すれば有効と考え ているならば良いのだが、未開通区間を経て、帯広の開通区間については、「車よりもクマが多い」と揶揄されている。

確かに 交通量は東名高速の50分の1程度(2006年10月の東名高速全区間の平均交通量は70663台、道東道の帯広区間は1374台)なので揶揄されても仕 方がないのだが、建設費が全く異なる。東名高速の建設時期と30年もずれているのでそのまま比較できないが、建設中の第二東名と比較すると・・・(建設費 用は構造物(トンネル、橋梁など)のある区間と土工区間では大きく異なる(第二東名はほとんどの区間が構造物だが、道東道は土工区間)し、道路の幅員(第 二東名は6車線、道東道は暫定2車線)も異なる。区間により差異が大きいがキロあたりの建設費用は東名高速の30分の1程度ではないだろうか。さらに保守 費が異なる。保守費は交通量※に比例するので、東名高速の50分の1だろう。)


※保守費は交通量に比例するが、正確には大型車混入率で大きく異なる。大型車混入率は、東名高速が約25%、道東道が約5%である。寒冷地のハンディはあるが、道東道の保守費は東名高速の50分の1よりもさらに少ない。

 道路は需要に応じてプロジェクト規模は大きく変動するが、空港は果たしてどうだろうか。地方空港の滑走路は短いし、ターミナルの規模も小さい。それでも 道路ほどの差異があるようには思えない。狭い日本にそんなになぜそんなに空港を作る必要があるのかわからない。航空会社の経営不振は、需要の少ない地方空 港の保守費が起因しているという記事を読んだことがある。1日1便で数十人しか利用しなくても、数万人がごった返す羽田と同じ機能を果たすシステムは必要 である。

また、航空機の保守施設も必要である。需要の少ない道路は造ったらそのままだが、空港は造ってしまうと保守が大変なのだ。失敗した箱モノの多く は、保守費が確保できずに廃墟になっている。地方自治体の箱モノは廃墟のまま朽ちてしまえばそれでよいが、重要交通施設である空港は、国家レベルで維持し なければならない。もし、アメリカに比べて空港の数が少ないので次々に開港させているならば、国土の広さ、航空需要の差異を冷静に比べてほしい。それにア メリカでも空港が多いのは需要の多い都市周辺で、全米各地に同じ密度で空港が造られているわけではない。

空港が少なくて何 とかしなければならないのは東京だけである。欲しいのは、成田、羽田の代替空港だけである。関東では空港用地の確保は難しいので、中部、関西、千歳などを もっと活用して、これらの空港と東京のシャトル便を24時間、高密度に飛ばせばなんとかなるのではないか。アメリカでは、乗り継ぎに便利な国内のハブ空港 がいくつも造られている。需要の多い東海岸に直行するのではなく、広大な空港用地を確保できるダラス、アトランタなどに国際線を集めて、ここから需要の多 い都市へシャトル便を飛ばす。都市の空港よりもこれらの空港の方が総発着数は多い。ヨーロッパで国境を越えて、アムステルダム、パリなどがハブ空港として 機能している。ヨーロッパ旅行に行ったことのある人には目的地以外にアムステルダムに立ち寄った人が案外多い。


 この本に記された成田の暫定滑走路の運用は、思い切った航空業界の活性化へのヒントになると思う。拠点空港を介して成田に集めるのではなく、その逆に成 田(の機能)を各拠点に分散するのである。成田に発着する長距離の国際線の多くを中部、関西、千歳に分散し、これらの空港と羽田の間に国際線扱いのシャト ル便を終日高密度に運行させる。いずれも24時間空港なので問題ない。福岡は市街地にあるので、海上空港の北九州を使えば同じ機能を果たせる。需要が少な く破綻寸前の関西の活性化にもつながる。発着数に余裕のできた成田には、貨物便が就航すればよい。元々、成田は東京から遠いので旅客便には不適切である。 特に飛行時間の短いアジア便では、羽田から福岡経由で行く方が時間も交通費も有利になるのではないだろうか。東京の機能分散は、その気になれば航空業界が 最も簡単に実施できると思うが、どうだろうか。このとき、発着便数に余裕のない羽田は、需要の少ない地方空港からの直行便を廃止しておかなければならない。

 実は、当方は道路には詳しい。道路に関する記載は膨大なデータの蓄積が発言に余裕を持たせる。しかし、ほかのことは断片的な知識を駆使して無理矢理紡い でいるかたちになる。エッセイ風に具体的な部分はぼんやりとかわして、味のある文章でまとめるセンスがあればよかったのだが。ちなみに、前述の国内の多く の空港ターミナルの周回道路への進入は、各地のエアポートアクセスに関心があったせいである。市街地、港湾、都市間高速道路などと空港のとのアクセスを確 認していたのである。これに関する駄文ならいくらでも記せるのだが、この場は感想文というかたちなので、きっかけになる一般的な書物が見あたらないのでど うしようもない。まあ、書物があったとしても、読者需要のない分野ですが。