ヒマヒマなんとなく感想文|

「不肖・宮嶋 ちょっと戦争ボケ」


(森川 晃 2005.11)

不肖・宮嶋 ちょっと戦争ボケ 上1989〜1996 宮嶋茂樹 新潮文庫
不肖・宮嶋 ちょっと戦争ボケ 下1996〜1999 宮嶋茂樹 新潮文庫

 作者も巻末にいみじくも「ちょっと早すぎた」と記しているが、現在も精力的に取材活動をしているのに総集編を編むのは確かに早い。当方は、作者の本はほとんど(全部かどうか確かではないがこの本で15冊目)読んでいるので、内容は既知のものばかりだ。それでも久々に読み返す丁度良い機会を得て、決して読後に損をした気にはなっていない。
 作者の作品はルポという堅いものではなく、旅行記としても十分楽しめる。かつて、NTVの電波少年でヒッチハイク3部作というのがあったが、そのリアル版である。電波少年がフィクションとは思っていないが、作者のツアーは基本的に一人で行っていることを特に評価しているのだ。本当に過酷なツアーは一人でしかできないと思うのだ。作品の節々に一人旅ならではの苦悩、考えを見いだせる。電波少年のきっかけは沢木耕太郎氏の「深夜特急」だったはず。当方もこの本の読後感はとてもすっきりしたものだった。電波よりも宮嶋作品の方がずっとこの感覚に近い。沢木氏はユーモアを避け、リアルな描写からまじめな考えを抽出していた。それに比べて作者は関西弁のノリでリアルな描写もユーモアで包み込むかたちで読みやすくなっている。
 旅行記の部分はあくまでもおまけで、やはりルポがメインである。ルポはメジャーメディアの視点とは異なる現場密着型で、現場を知らないキャスターの画一的な原稿読みや解説者(学者)の学究的で無難な意見では決して表れない本音を抽出している。メジャーメディアで戦場の生業を大系的に理解して、宮嶋氏の作品でその本質を知ると丁度良い理解になると思う。宮嶋氏の作品だけを読んでいると、戦場に行ってみたくなってしまうから。

 ところで、東長崎HPのBBSで宮嶋氏のゴーストライター(勝谷氏)のことを記して意見を頂戴した。当方はゴーストライターの存在を批判していないし、本職はカメラマンなので、めんどうな原稿起こしは得意な仲間にお願いするかたちは理想的だと思っている。それで、軽く記して誤解されてしまったようだ。まあ、意見をくださった方も怒り心頭という感じでもなさそうなのだが、ゴーストライターの存在は宮嶋氏の著書に記してあった事実であり、決して隠していないのでこの件はそもそも問題ないのだ。元々、カメラマンとライターは別の仕事なので、分業が一般的なのだ。この本の巻末に勝谷氏が記しているが、ある時期から宮嶋氏本人が本文を記すようになった。その違いがわからないのがすばらしいと思うし、勝谷氏の個性を引き継ぐのは大変だったと思う。これは想像だが、好んで戦場取材をして悲惨な現場を繰り返し見てきた人は、ストイックで無駄なおしゃべりはしないような気がする。関西弁のノリでベラベラ思いついたことを何でも口にすることはないと思う。何度かTVで宮嶋氏本人を見たことがあるが、肝心な一言しか発しなかった。つまり、宮嶋作品の軽いノリの文体はたとえ本人の記述でも「作ったもの」ではないだろうか。一読者である当方には、読んでおもしろくて、次の作品も読んでみたくなれば、それで良いのだが。
 宮嶋氏のゴーストライターの件は、朋友で同業者の戦場カメラマンである加藤健二郎氏へのメッセージを送ったつもりだった。彼も世界各地の戦場を取材しているが、作品数が少ない。もっと本を出してほしかったのだ。現場取材は積極的に出かけるので、作品数の少ない原因は書くのがめんどうなのかと思った。それで、一般的にはカメラマンとライターは別で、宮嶋氏もその仕組みを使っていたと記したのだ。他意はないのです。