ヒマヒマなんとなく感想文|

「戦場のハローワーク」


(森川 晃 2005.10)

「戦場のハローワーク」加藤健二郎 ミリオン出版

(2005年10月10日に、作者から手渡しされた本。)
この本は「戦場へのパスポート」(ジャパンミリタリーレビュー)の焼き直しにあたる。パスポートから現在までの分が追加されて、作者の生き様を記した最新版になる。戦場カメラマンという希有な職業の友人を持ち、おそらく彼と知り合わなければ、この手の本を読んでいたかどうかわからない。国際情勢を扱うノンフィクションはかなり読んでいるので偶然ぶちあたるかもしれないが、彼のような戦場のコアなドキュメントを手に取るだろうか。

作者と似た視点を持つ人には、「不肖」宮嶋茂樹氏がいる。宮嶋氏はテレビなどの露出もあり、戦場だけでなく芸能人スキャンダルなども追いかける。大手出版社から文庫本も出ているし、作品数も多い。宮嶋氏本人は現地取材、メモ書きくらいで、本文は別の人が記している。つまり宮島茂樹は、多岐に渡る取材、出版を手がける団体の固有名詞なのだ。それを批判しているわけではない。多くの作家はたいていこのようなシステムで成立しているものである。

加藤氏はこの本によると9冊本を出版している。ほぼ2年に1冊というところである。本を出版するのがジャーナリストの仕事ではないのかもしれないが、もっと書いてほしいと思う。まあ、良い意味でいつも期待を裏切るのが彼の良いところなのかもしれない。おそらく今後も縁を切る可能性はゼロなので、状況注視を継続したいと思う。

なお、この本は案外廉価で、戦場ジャーナリストの実情を知るには丁度良い本だと思う。関心があればストレートに共感できるし、関心がなければこれまで知らなかった新しい分野を知る良い機会になる。かつて、永六輔氏が著書に病院に見舞いに行くときには、その人がこれまで関わったことのない世界の、しかもコアな内容の雑誌を持っていくと良い刺激になるというようなことを書いていた。たとえば、「月刊食堂経営」「剣道日本」のような本である。もちろん、入院している友人が食堂経営者でも剣道の達人でもないことが前提である。この論理で「軍事研究」とくだんのハローワークを持っていくのである。ベッドの脇にこの手のコアな軍事本が置いてあったら、ほかのまじめな見舞い客はきっとおもしろい反応を示すはずである。入院している人が女性ならば、その人のユーモアセンスは倍増だ。退院する日が楽しみになるのは間違いない。