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「臨機応答・変問自在 森助教授VS理系大学生」


(森川 晃 2005.7)

「臨機応答・変問自在 森助教授VS理系大学生」森博嗣 集英社新書

 本編には一箇所も大学を特定する言い回しはないが、この理系大学は名古屋大学工学部建築学科のようだ。作者の裏家業はミステリー作家で、表ではこの大学で教鞭をとっている。ミステリーはほとんど読まないが、書店に入り浸っているので作者の名前は知っていた。(当方にはよくあることなのだが)作家の本業の作品ではなく、変化球を先に受け止めてしまう。この本は学生の(主として科学系の)質問に作者が回答するかたちになっている。本のつくりとしては安易なものだ。ただ、ユニークなのは、「質問をすること」が学生の試験になっていることである。つまり、この本には学生の試験回答が並べられている。そして、その回答を記している。これは採点にあたる。

 この手の本では、学生のマヌケさを誇張するために、敢えてレベルの低いものを選ぶ傾向がある。万人に観られるテレビ番組ならばその方が視聴率は良いだろう。マスコミは大衆の期待通りのアクションをしなければならない気の毒な業界だから。しかし、出版業界はまだ読み手側にもユニークな人は多いので、あざとさを感じ取られたら敬遠されてしまう。この本はほぼ全編にわたりマヌケな質問が列記されている。それなのにあざとさはあまり感じない。作者の紋切り型の回答がすっきりしているせいか、それともミステリー作家の筆力によるものか。いずれにしても短時間で読める割には楽しめる本である。

 実は当方は「道路」についてはとても詳しいが、一般的な科学にはそれほど詳しくない。それでも、最低限の常識は自分なりに定めている。例えば、宇宙船の地球大気圏の離脱速度とか、蛍光灯の点灯原理とか、スチールカメラの仕組みとか。「道路」以外は専門家ではないので、厳密な説明はできないが、少なくとも基本法則はわかるので複数の回答例から正解を選択することはできると思う。ところで、この本には当方の常識よりもはるかに低いレベルの認識を多々みつけることができる。マヌケな回答を選択する作者の作為は明確だが、それにしてもひどいものが多い。建築科なので、ときどきプレストレスコンクリートの原理とか専門分野の誤認識も紹介している。当方は「道路」の一環としてコンクリートなど建築系においても常識レベルを保持しているので、ほぼ全編において楽しめた。誤認識の詳細については本編を書き写しても仕方がないので、これ以上触れない。

 この本を読んでみて、当方が学生のときは大丈夫だっただろうか、と気になった。
 作者は今の時代を「コンクリート」の時代と考えているようだ。これは当方の考えと同じである。過去はなぜか土の中、海の中、地球表面から内部に沈み込んでしまう。現代の地表が沈んだとき何が残るか考えてみるとコンクリートだと思う。建築物や土木構造物など大きなものは分解されることなく、当時どのように利用されていたのか未来人に容易に想像させるだろう。大都市だったところにはコンクリートの地層ができるかもしれない。