この本では自分は戦場を見たいだけで、ジャーナリストは生きる道と言っている。ジャーナリストは報告することが仕事なので、対象は何でも良い。あまり関
心はなくても、食い扶持のために、意図した好奇心で取材すれば良いのだ。ただし、報告についてはプロなので表現はうまい。また、うまい表現をするために必
要な情報を取材するのである。逆に言えば、報告に都合の良い情報を取捨選択するのである。決してデータを捏造するわけではなく。データを絞るのである。た
とえば、大地震で見かけはひどい被害だったならば、困っている様子や悲惨な状況を報告したいだろう。まさか、保険で新築になるので喜んでいる様子や、しば
らくは仕事のオファーが絶えないとほくそ笑む工務店主の表情はとても選択できないだろう。
ジャーナリストはあくまでも報告のプロである。作者はジャーナリストという肩書きにしているが、本当は戦場のプロに相応しいと思う。しかし、それでは軍関
係の人そのものになってしまうので、戦場見学のプロだろうか。そのあたりは特に規定する必要はないのだろうが、少なくとも注文通りの情報提供を強いられる
マスコミには取り扱いにくい類のジャーナリストと言える。
そういうわけで、著作は少なくないが、メジャー出版社から出版されていなかった。ところで、出版物のほとんどが東京で発刊されている。そのため東京以外で
は思ったよりも配本されていない。作者の本についても地方都市で注文ではなく店頭で手にとって購入できたのは数冊である。
この本はメジャー出版社から、長い期間において配本される新書である。この本でも巻末に多くの人に触れる機会を得たと記しているが、まさにその通りであ
る。作者の本が地方書店の新刊コーナーに平積みになっているのは初めて見た。最初に見たのは名古屋で、当方はここで購入した。それから鹿児島、博多の書店
でも平積みだった。さらに京都でも。ちなみに当方は鹿児島から熊本への移動中にこの本を読んだ。
この本の内容は、既刊本に掲載されたもののオムニバスなので、当方には目新しさはなかった。かつて、既刊本を読んだ感想として「ネタに対して本文があっ
さりしている」と感じた。報告のプロならば、それだけの体験をしたら、もっと話を広げられると感じたのだ。もったいないということである。また、作者はプ
ロの写真家でもあるので、きっと写真のストックも多いはずである。全く同じテーマでも写真を変えればもう一冊編めると思う。商業主義に徹すれば、いくらで
も稼げるのではないだろうか。まあ、それをやらないところが良いところなのかもしれないが、今回のようなかたちの出版ならば、報告することに色づけすれ
ば、さらに多くの人に注目されるだろう。同業のプロカメラマン宮嶋茂樹氏のように取材、執筆、編集などの作業を分業して著作を宮嶋茂樹システムの作品にす
るという手もある。エンタテイメントとしての読み物にはこの方が有利である。ほかにオーソドックスな方法として対象を限定せずにジャーナリズムに徹する本
多勝一システムもある。大衆によりインパクトがあり、致命的な抵抗を避けられる対象を見つけ、あとはひたすら報告能力を磨 くのである。いずれのシステムも当方は多くの著作を読んでいる。宮嶋氏はおそらくすべての本を、本多氏は多作なので全体の出版数が確認できないが60冊以
上(共著やブックレット、大幅に改訂された同タイトルの単行本と文庫本、それに複数の既刊本からの抜き出し編集本など、いろいろな形態で出版されているの
で厳密な冊数が定義しにくい)読んでいる。やはり、彼らの本は書店で入手しやすいし、読みやすいのだ。
加藤氏は将来において読み物としての本を編む気があるのかどうか不明だが、少なくとも現時点ではジャーナリストよりもマニア(研究者)に近いような気が
する。対象が特殊なので冒険家とも言える。いずれにしても「職業としての戦場」とは捉えていないようだ。この機会に方向性を変えて、本来の意味における
ジャーナリズムに拘れば、偽物のジャーナリストを淘汰させる良い機会になるかもしれない。
飯沢耕太郎氏の批評はこちら
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