ヒマヒマなんとなく感想文|

「殺人全書」


(森川 晃 2004.3)

「殺人全書」 岩川隆 徳間文庫

世界各地の殺人パターンをまとめた重厚な資料である。印象に残る箇所はとても多い が、とりわけ目立ったのは、猟奇殺人犯の知能指数が異常に高いという点である。戦後の 日本では、犯罪者に対しても人道的配慮からあまり分析的なデータ採取を行っていない が、現在でも世界各地ではさまざまなデータを採取している。さすがに知能指数に関して は全世界的にも採取しなくなってきた。この本では過去のデータの分析結果をまとめてい る。

 猟奇殺人とは、因果関係のない人に対して、犯人の趣味として殺人行為を楽しむもの で、様々なパターンがある。具体的には記さないが、まともな精神状態ならば生理的に嫌 悪感を覚えるし、犯人の思考は一切理解できないものばかりである。彼らは、異常者とし て犯行に及んでいるわけではない。彼らにとっては犯行時も裁判時も正常者なのだ。した がって、逮捕拘留後の取り調べは冷静で、不合理な発言はほとんどないのだ。

 ところで、猟奇殺人犯とは、麻薬中毒者の衝動的な犯行とは全く異なる。麻薬中毒者は 素面になれば犯行が良くないことであることに気づき、自己弁護のために騒ぐのだ。猟奇 殺人犯にはそのような人間臭さは見られない。日本では宮崎勤事件が、かなり近い。そ れ以外の14歳の事件など子供による犯行や、女子高生誘拐監禁の新潟の事件も異な る。これらの事件は人間の本能に少しは含まれる衝動が暴発したもので、少しは弁護の 余地がある。彼らの暴発の根本原因は常識からの阻害である。仲間はずれにされたこと に対する自己主張がねじ曲がったに過ぎない。

 猟奇殺人犯は、人を殺すことを論理的に正当化している。もちろん、自分だけの思考回 路においてである。社会生活をする者としては失格者だが、人を殺すことを合法的に正当 化している状況もある。全世界で展開している紛争では、殺人者は英雄なのだ。しかし、 この状況の策定は一個人で作り上げることは難しい。ところで、人には人を殺せないという 本能もある。名作「罪と罰」の要約で、清水義範氏と井上ひさし氏、尊敬する二人が、当方 の印象と全く同じ一文でまとめていた。
「人を殺すと頭がおかしくなる」
 たとえ、合法的な状況でもおかしくなるのだ。英雄の多くは自殺を含む変死に至るケース が多い。これは本能なのだ。人としてあたりまえの結果に至るのだ。しかし、猟期殺人犯 は人とは異なる思考回路で殺人を合法化することができるのだ。本能に打ち勝つ思考に は、並はずれた知能が必要なのかもしれない。

 ところで、知能指数って何を判断しているのだろうか。知能指数は、学業の成績とは相 関関係がないと言われている。当方も子供のころ目の当たりにしている。クラスで1番知 能指数の高かったMくんは、決して学業の成績は良くなかった。大器晩成型で後に大成し たかもしれないが、少なくとも現時点では音信は聞こえてこない。

 また、知能指数を大学入試や会社の採用時に参照するという話も聞いたことがない。ま さか、猟奇殺人者になる可能性を密かにチェックしているということはないとは思うが。実 は、当方はクラスで2番だったのだ。点数は当方が1番のMくんよりも高かったのだが、誕 生日が早かったため判定で2番になった。いずれ、とんでもない事件を引き起こすのかもし れない。