活動元通信アナリストの眼

教科書問題



津田塾大学系の財団法人 津田塾会で中国語を学び始めて半年になる。最初は発音で
四苦八苦していたが、一ヶ月ほどたったら慣れて心の余裕ができ、授業をさぼること
も考えるようになってきた。そのころ、私はあることに気がついた。使っている教科
書に出てくる登場人物のバランスがいまいちよくないのである。普通であれば、男性
と女性、そして日本人留学生やOLといった人物がまんべんなく出てくるが、この教科
書には王さんという男性が二人出てきて、他に帳さんという男性、そして李さんとい
うこれも男性である。なにげなく先生にこれを問うてみた。教科書は「留学生のため
の中国語」で初版は1990年。発行元は日本の東京大学に相当する北京大学である。私
は当時の北京大学は男子校で、というような答えを期待していた。しかし、なんでま
た王という名前の人が二人出てくるのだろうか。


あまり深く考えもせず、私は実に政治的にデリケートな質問をしてしまったのであ
る。なぜなら、王京生を始めとする登場人物は全て中国の民主化運動のリーダー達で
あったのだ。とすれば、彼らの寮を訪ね、北海公園に遊びに行き、親交を深める山村
さんという日本人留学生は実存したのであろうか。いずれにせよ、私は授業の中で、
王京生に扮して北京の名所を山村さんに案内し、買い物をし、今日は何日何曜日か聞
き、道順を尋ねた。王京生という名前は覚えたが、それが中国大陸の人にとって特別
な響きを持つ名前とはつゆ知らずであった。
この時点より、私は財団法人 津田塾会という無害そうな非営利団体は実に中国につ
いては明確な政治的スタンスを取っていることに気が付くのである。当然、講師はバ
リバリの反中共分子。在日中国人の多くは共産党が嫌いであろうと、ここは大目に見
よう。しかし当学院が推薦する中国交流イベントは明確に反中共なのである。例えば
当学院の紹介により知ることになった、内モンゴルで植林事業を進めるNGOは「国と
国の交流ではなく、市民と市民の本当の意味での心の交流」を掲げる。主張の中身は
ラジカルに反北京で、「官製ツアーや商業ツアーにない心の交流」と強く主張。しか
し、知り合いの中国人が言うには、「心の交流がしたければ、普通に話しすればいい
じゃない。なんでまたカッコつけて。」そして「植林してくださるのはありがたいけ
れど、人に親切にするために、わざわざお金をかけて内モンゴルにいくわけ?」と腑
に落ちないようだった。なるほど、カッコつけないと交流が成立しないならば、その
交流ツアーたるものは、彼らが否定する官製ツアーとなんら変わりのない気がする。
主役が「市民」であろうと。



また、最近になって「映画を楽しみながら中国語で会話」という講座が開設された。案
内を見ると「中国における科学犯罪、暗黒社会、麻薬等の問題を考える」とある。し
かし暗黒社会と付き合うつもりで中国語を学ぶ人ってそう多くはないと思うが。


嫌中の津田塾と反するスタンスを取るのは日中学院。この学院は財団法人 日中友好
協会の傘下にある。こちらは「日中友好のために力をささげよう」と書かれたポス
ターが教室のいたるところに貼ってあり、学習の目的は日中友好推進と言わんばかり
である。パンダが好きとかいう中途半端な動機は認められないのだろうか。


一度体験レッスンに出てみた。「学習好中国話。力日中友好橋梁作用。」こんにちは
(ニーハオ)を習う前にこれを暗証させられるのではないか。こういう危惧を抱いて
いたが、さすがにそれはなかった。日々中国批判の報道があふれ返っている中で、学
生からは中国人講師に対して鋭い質問が浴びせ掛けられた。講師の胡先生はそれを見
事なユーモアと美しい日本語で応対し、日中友好が大事という結論に導いていった。
その後茶話会があった。日中友好のすばらしさを体感。また当学院では全校合宿を毎
年実施し、講師と生徒は同じ釜の飯を食べて日中友好を誓い合う。ちなみに日中学院
では旅行ツアーを紹介しているが、それは日中友好事業の一環で田中真紀子元先生が
同行する(とされる)友好訪問団である。


反政府と日中友好、どちらがいいか。中国語を学ぶものにとってはなんたら主義より
勉強する環境。その点では図書館がある日中学院の方がはるかに勝っている。また日
中学院の胡先生は超人気者で、先生の授業はキャンセル待ち状態が続いている。一方
の津田塾会は、生徒が集まらなかったため、中国語入門 夏季講座の開講は見送っ
た。


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